瑞牆山 マルチピッチクライミング開拓プラン 調和の幻想~奥壁~小ヤスリ岩

かなり特殊なご依頼を頂きました。ご依頼内容は、瑞牆でのマルチピッチ開拓プランです。グランドアップによる4~5ピッチほどの開拓クライミングをご希望でした。(当然ながら)お客様がリードしてバリバリと開拓するわけではなく、主に私がリード・開拓するスタイルや様子を見てみたいとのことでした。トポの無い冒険的なクライミングをしてみたいとも。
瑞牆で4~5Pのマルチとなるとカンマンボロン~十一面岩周辺に落ち着きます。この周辺で、はたして未踏のおいしいラインはあるのか。偵察を重ね、この地に精通する開拓クライマーにもご相談しながら目的のラインを定めてガイド当日を迎えました。目指すラインは奥壁のズルムケチムニーの右にある顕著なクラックライン。

奥壁 ライン1

奥壁全景 小ヤスリ岩ピークより

記録も見当たらず登った話も聞きませんが、小ヤスリ岩からそのラインは一目瞭然です。人知れず、昔に既登されている可能性はありますが、そのあたりはお客様にとってそれ程重要ではない(初登記録を残すことが目的ではない)とのことでしたので、このラインとしました。奥壁の既成ルートを登った感じでは岩質は良く、傾斜もそれ程あるわけではなくピッチ数もご希望通り。ただし、後半にでてくるハング状のクラックがかなり威圧的に見えて、その形状によっては難しいクライミングになるかもしれません。

1日目は、最近あまり登っていないお客様の足慣らしと、マルチピッチクライミングのシステムの復習をかねて末端壁の「調和の幻想」へ向かいました。

調和の幻想2P目バリエーション   撮影:大石明弘

調和の幻想2P目バリエーション 撮影:大石明弘

しかし残念ながら下部は濡れていて、1P目は濡れた岩をだましながら、2P目は、濡れた正規ラインではなく、左のコーナーハングを越えるラインから登ることにしました。なかなか悪かったですがお客様、頑張って抜けました。それ以降は、濡れも気にならず、爽やかなクライミングを楽しみました。
調和の幻想4P目
久々のクライミングでお客様はかなり力が入った登りとなっていましたが、一日クライミングして、だんだんと体が反応してきたようです。
時間もあったので明日の開拓ラインを偵察に。小ヤスリ岩の方面まで上がり霧の合間から明日の目標となるラインを確認するとモチベーションが更に高まります。明日の登攀を楽しみにしながら夜を過ごしました。
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2日目:いよいよ、開拓クライミング。早朝に起きて奥壁に向かいます。
ハング状に被ったクラックが、実際どうなっているかが気になるところ。
キャメ6番まで1.5セット程と、ナッツ、トライカムも念のため用意して取り付きました。

1P目:5.9 20m(取り付きは広場から20m程)
ズルムケチムニーの取り付き(広場)を
右に回りこんで左上するクラックに取り付く。
少々ブッシュくさいが、ヒールフックとかしながらクライミングっぽい動きでブッシュまで。
フォローの為にもプロテクションは大目が安心ですね。
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2P目:5級 15m
フレーク状クラックの取り付きバンドに向かってハイハイ・トラバース。

3P目:5.9 40m
取り付きに錆びたボルト発見。ピッチ上にも2本ほどのボルトがありました。
快適なガバホールドを使って傾斜のあるフレークを登っていきます。
お客様は、昨日の疲れもあるはずですが、それよりも昨日の足慣らし効果で調子が良さそうです。
少々、脆い部分には注意。コーナーが途切れた所を左に乗り越しテラスでピッチを切りたかったが、クラックが微妙に浮いているのでそのままブッシュまでロープを伸ばしました。
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4P目:5.8 15m
被ったクラック直下のビレイ点まで移動して取り付く。
懸念していたピッチですが意外とハングは小さくて問題なさそうです。
コーナーを使いながらのワイド登り。リービテーションが気持ちよくきまります。

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お客様も初リービテーション。ハンド・フィストの典型的なリービテーションが楽しめます。

 

5P目:5.7 25m (ズルムケチムニールートと最後は合流します。)
巨岩を縫って、ピークへひと登り。ここはお客様のリードで奥壁のピークへ到達。
支点もバッチリと沢山とって慎重にリードしてもらいました。
昨日は霧に覆われていたけど、今日はスッキリと見渡せて爽やかなピークで至福のひととき。

以前の奥壁ピーク写真です。

以前撮ったの奥壁ピークからの写真です。

※今回、登ったラインは記録は見当たりませんが古いリングボルトが散見されだいぶ以前に登られているルートでありました。新規開拓ルートとはなりませんでしたが、未知のルートに取り付くのはやっぱり、緊張しますね。結果的に既登ラインでしたが、かなり楽しいルートでした。5.9までなのにブッシュや歩きがなく、これ程気持ちの良いピークに立てるルートは貴重だと思います。


2014.8.10追記
瑞牆トポをまとめているN社長からの勧めもあり、再整備したラインに、ルート名をつけることにしました。名無しのルートはどうしても埋もれてしまう運命にあります。これだけ内容のあるルートは、もっと登られるべきと思いました。
折角なので、お客様に名づけてもらいました。
ルート名「Joyful moment 」5.9 5P
奥壁「Joyful moment 」の紹介ページを設けました。写真トポ付きです。こちらから
※ルート名は仮称です。初登情報ありましたら、ご連絡頂けると幸いです。


ガイディングは続きます。時間があったので、小ヤスリ岩にも継続しました。

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最近、定番になりつつある奥壁~小ヤスリ岩。
何度登っても気持ちの良いピークです。
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蒼天攀路の豪快な懸垂+高度感タップリのトラバースピッチを経て小ヤスリ岩をあとにしました。未だ帰るにはちょっと時間が有ったのでズルムケチムニーの1P目でチムニー練習を行いました。このクラックは、ワイド特有の動きをを覚えるのにとても良い課題です。チキンウイングやチムニーでの足の使い方、肩甲骨の動かし方などを重点したレッスンですが、どんどんとチムニー登りの基本が身に付いてきて、教えていても嬉しい限りです。何度も果敢に練習するお客様。トップロープで4回!も登って2日間の日程を終了しました。
かなりハードな2日間を過ごされたお客様から、「充実した2日間でとても良かった」と言って頂き嬉しかったです。私としてもお客様と瑞牆で中身の濃い2日間を過ごせて充実しました。
ありがとうございました。

瑞牆山 マルチピッチクライミング開拓プラン 調和の幻想~奥壁~小ヤスリ岩」への1件のフィードバック

  1. ピンバック: 瑞牆 十一面岩 奥壁「Joyful moment 」5.9 5P 再整備 | 山岳ガイド 佐藤裕介 ALP GUIDE OFFICE

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