2013瑞牆マルチ継続 50P

2013年。私はこの年に予定していたヨセミテとパタゴニアへのトレーニングの一環として瑞牆でマルチピッチクライミングの継続に取り組んでいた。毎週の様に複数ルートを登って12時間以上の登攀を続けると色々なものが見えてくる。最初は12時間登り続けていると辛かった継続も、最終的には容易なルートを5ルート15時間程度の継続なら爽やかに終えられるようになっていた。

以下は、この年の継続登攀でもっとも頑張った1日の記録である。

○概要図

2013年6月8日 メンバー横山勝丘、佐藤裕介
 目標は1日50Pの継続登攀。カンマンボロン、大面岩、十一面岩正面壁、左岩壁、カナトコ岩の代表的なラインを7本継続する予定である。
 3時、駐車場出発。最初からハーネスを装着しアタック体勢である。パーティーで持ったのはロープ33m 1本、カムナッツ1set(C4 #0.3~4)、小さなザック1つ、長い1日に備え行動食は多めに持った。クライミングシューズは大きめの物と、本気シューズの2足。私は軽量化のため、アプローチシューズは持参せず、クライミングシューズをかかと履きしてアプローチをこなした。


●カンマンボロン ワイルドアットホーム 5.11c 6P
 4時、ヘッドランプをつけて登攀開始。朝一が5.11cのスラブと手強い。セカンドは、2リットルの水と食料&カムを背負い、とても辛い。それなりに順調に進み7時終了。カンマンボロン右のルンゼを懸垂下降~大面岩にすぐさま取り付く。


●大面岩 フリーウェイ 5.11c 8P
 フリーウェイは今回が初見である。2P目のスラブはかなり悪いと聞いて鬼門の一つと感じていたルート。1P目から中々登り応えあり。問題の2P目をジャンボリードで取り付くが、派手に2度フォールして交代。佐藤が無事完登。変化に富んだカチをつなぐ素晴らしいピッチである。足皮の痛み予防に、これ以降フリーウェイではブカブカシューズに替えて登攀。上部の5.11aで落ちそうになりつつもノーフォールで2本目を終了。大面岩・小面岩のコルへ下りて正面壁へ。最近、道が整備され快適な15分の散歩で到着。


●十一面岩 正面壁 アレアレア 5.12b 10P
 これ以降、正面壁付近での継続となるので余計な荷を取り付きに置いてフォローも身軽にした。つばめハングの滴りにで水を補給する。
 今回の継続の最大の核心。5.11d、5.12a、5.12b、5.11dを擁するアレアレアへ。このルートを失敗せずスンナリと登らなければ目標達成は難しい。ブロー(ボルダリング)帰り直後のジャンボは調子イマイチなので、難しいピッチはリードさせてもらった。先々週、トライしていたこともあり、1P目5.11dはスムーズに突破。4P目5.12a痛いカチに耐えながら良い流れで完登できたが、左の前腕が結構パンプしてしまった。疲れは確実に蓄積している。6P目、鬼門の5.12bのクラック。細く極小カムも受け付けない最初の数メートルが私にとって特に難しく、プロテクションは錆びたピトン2つ。恐ろしいなあ。先ほどから引きずっている左前腕のパンプを解消すべく取り付きで少し休憩。取り付きから、ピトン上のフレアクラックにリンクカム紫でプロテクションを補強してスタートした。気合のレイバックで第一核心を越えてガバへ。酷くパンプした前腕を粘ってレスト。根性のいる上部もこなして完登した。「とても嬉しい」が、一気に疲労が全身を包んだ。続いて7P目5.11d。最初のボルダームーブは、まともに出来た事が無く、こちらも問題のピッチ。集中して地ジャンからの2ムーブを1発で決め、上部の精神力のいるスラブを完登。やった、パーフェクト!ここからは、ベルジュエールと合流。5.10までの簡単なピッチを登り切って十一面岩のピークへ。山場である3本目を良い形で終了した。登攀時間は4時間半。下降は、ピークから15m懸垂後、右のルンゼを歩き&フィックス下降。


●十一面岩 正面壁 秋一番5.10c 9P
 いつも気になっていたけど、取り付けずにいた「秋一番」へ。山河微笑と同じ1P目を登り意外と露出間あるスラブを右上。ブッシュ&露岩は意外とランナウトして怖かった。頭上に核心のルーフクラックを見上げながらアプローチピッチをジャンボがリードするが、超危険な積木状浮石が中間部にあって恐ろしい。このピッチは左のハンドクラックからにするべきだった。核心のワイド5.10cへ。ハング取り付きは、昨日の雨で濡れていたが登るのには支障なし。大きいカムはC4の4番までしかないので少々緊張しながらスタート。胸がピッタリと押さえつけられるスクイズチムニー状で苦しいがゼイゼイとワイド登りを楽しんで登り切った。これぞワイドという感じの素晴らしいクラックだ。疲れた我々には上部の5.10台のクラックも侮れず丁寧に登り完登。体全体が疲労して、手足とも攣り気味である。

●十一面岩 正面壁 ベルジュエール 5.11b 9P
 予想では、秋一番を登り終える頃には真っ暗だと思っていたが、正面壁に戻ったのは19時前。まだホールドが見える内にベルジュエール1P目を登ってしまうのが得策と、正面壁へ3連続で取り付いた。朝から数えると34P目。5.11bでも油断ならないこのピッチを気合入れて登りきり、ヘッドライト行動に移行した。既に一手一足を出していくのが辛い。キャメ2番までしか持参しなかったので大フレークピッチはランナウトで越えた。久々だったのと、疲れ&ヘッドライトで緊張した。夜風に少し震えながら星明かりのピークに立つ。見下ろす、植樹祭会場のキャンプ場の光が賑やかだ。

●十一面岩 左岩壁 山河微笑5.10a 4P
 人間の限界ってものは、意外と遠くにあるもんだ。中学のサッカー部の顧問が「お前らが限界ですって言うのは、お前らが引いた限界線だ。本当の限界はもっと先にあるんだよ」って言ってたなあ。と思い出しながら暗闇の中、ダルイ足を左岩壁の取り付きに向けた。やけに息が上がり意識しないと体が動かない。こんな体には結構キツイ、ワイドクラック中心の4Pを終えると、終了点でジャンボが仰向けにぶっ倒れて、「辛い」と呻いていた。でも、限界はもっと先にあります。
 手持ちの33mロープでは、下降が厄介だった。正面壁とのコルからルンゼを歩き&クライムダウン。後半は懸垂5回。最終の懸垂でバックロープが必要。

●十一面岩 カナトコ岩 錦秋カナトコルート 5.10a 4P
 これが、最終ルートだ。残った食料(と言っても飴1個とパワージェル1個)をポッケに入れて出発。夜間登攀になってからの合言葉は「気をつけて行ってらっしゃい」。立ち止まったりビレイをしたりする間、激しい睡魔に襲われながらも、登り続けカナトコ岩のてっぺんに辿り着いた。非常な疲労を感じるが、ここが限界ではないことを確認して下山した。

下山後の横山(ジャンボ)と佐藤

  補足すると、今回のトライは瑞牆の7本のマルチルートを継続する物。行動時間26時間(登攀時間24時間)。ピッチ数はルート図記載のピッチ数でカウントした。実際は特に容易なピッチは同時登攀してピッチ数と時間を短縮している。1本のルート完登は全てのピッチを完登(OS・RP)しなければならない(テンションかけたらビレイ点からやり直し。当たり前ですね)。本当はフォローもノーフォールでコンプリート完登を目指したいが、そこは妥協して、少なくともリードは完登して次のピッチに進む事にした。ちなみに、佐藤はこの継続中、リード・フォロー共にノーフォールで一日を終えた(ちょっと自慢)。